この記事の結論
テナント改修で消防設備のトラブルが起きるのは、「工事の内容が軽いから、消防は関係ないだろう」と判断してしまったときです。
実際には、パーテーションを1枚立てるだけでも届出が必要になり、事務所を飲食店にするだけでビル全体に工事が発生することがあります。
この記事では、内装工事の担当者が着工前に確認しておくべきポイントを整理しました。
テナント改修で消防設備が絡む、3つの場面
1. 入居時(内装工事) 間仕切りの新設、天井の張り替え、用途の変更。最も多く、最もトラブルが起きやすい場面です。
2. 入居中(レイアウト変更) 什器の入れ替え、パーテーションの増設。「工事」という認識が薄いため、届出も設備確認も抜けがちです。
3. 退去時(原状回復) 入居時に増設した設備を戻す必要があるか。範囲と費用負担でもめやすい場面です。
以下では、最も相談の多い1と2を中心に説明します。
見落としがちなポイント5つ
ポイント1:間仕切りとスプリンクラー
間仕切りを立てると、ヘッドのない部屋ができる(未警戒部分)、または壁が散水を遮る(散水障害) という問題が起きます。
一般的なオフィス・店舗で使われる標準型ヘッドの場合、消防法施行規則では、デフレクター(先端の水を拡散させる部品)から下方0.45m以内、かつ水平方向0.3m以内には、何も設けたり置いたりしてはならないとされています。この範囲に壁の上端がかかると、散水障害と判断されます。
天井に届かない腰高のパーテーションでも対象になる、という点が最も誤解されています。
もう一つ、見落とされやすいのが**「はり等による区画」**の考え方です。取付け面から0.4m以上突き出したはり・垂れ壁等で区画された部分には、それぞれヘッドが必要になります(はり等の中心距離が1.8m以下の場合など、例外規定はあります)。
なお、アコーディオンカーテンなどの可動式間仕切りを設ける場合は、原則として間仕切りごとにヘッドが必要です。「固定していないから対象外」とはなりません。
※上記はいずれも標準型ヘッドの場合です。小区画型ヘッドや側壁型ヘッドでは基準値が異なります(水平方向0.45m以内など)。実際の判断は、既設ヘッドの種別を確認したうえで行います。
詳しくは間仕切り変更でスプリンクラーヘッドの移設は必要?で解説しています。
ポイント2:感知器も「区画」で考えます
自動火災報知設備の感知器にも、スプリンクラーと似た考え方があります。
感知器は**「感知区域」ごと**に必要です。感知区域とは、壁や、取付け面から0.4m以上(煙感知器・差動式分布型感知器の場合は0.6m以上)突き出したはり等によって区画された部分を指します。
つまり、天井から0.4m以上下がる垂れ壁や間仕切りを設けると、そこで感知区域が分かれ、感知器の追加が必要になるということです。
一方で、多くの自治体の運用基準では、間仕切壁の上部に開口部(0.2m以上×0.3m以上)を設け、その開口部から0.3m以内の位置に感知器を設けた場合、隣接する感知区域を一つとみなせるとされています。設計段階でご相談いただければ、感知器を増やさずに済むケースがあります(適用可否は所轄消防署の判断によります)。
ポイント3:誘導灯は「見えるか」が基準です
間仕切りを立てると、避難経路そのものが変わります。
消防法施行規則では、誘導灯の周囲に誘導灯とまぎらわしい、または誘導灯をさえぎる灯火・広告物・掲示物等を設けてはならないと定められています。新しい壁やサインが誘導灯の前に来ていないか、確認が必要です。
また、通路誘導灯は避難経路の曲がり角に設けることとされています。間仕切りによって新たな曲がり角が生まれれば、通路誘導灯の追加が必要になります。
「照明計画は決まったが、誘導灯は既存のまま」という図面は要注意です。
ポイント4:排煙は建築基準法側の確認も必要です(ここが盲点)
排煙設備には、消防法に基づくもの(消防法施行令第28条)と、建築基準法に基づくもの(建築基準法施行令第126条の2)の2種類があります。根拠法令が分かれており、所管も異なるため、打ち合わせから漏れやすい項目です。
一般的なオフィスビル・商業ビルのテナント改修で問題になるのは、主に建築基準法側の排煙設備です。
排煙設備が必要な建物では、床面積500㎡以内ごとに「防煙壁」で区画することとされています。防煙壁とは、間仕切壁や、天井面から50cm以上下方に突出した垂れ壁などを指します。
問題は逆のケースです。間仕切りを立てたことで防煙区画が分断され、排煙口のない区画が生まれることがあります。この場合、排煙口の増設やダクトの経路変更が必要になり、金額も工期も大きく動きます。
天井内のダクトが絡むため、天井を閉じる前に気づかないと手戻りが確定する項目です。
ポイント5:用途変更は、ビル全体に影響します
5つの中で最も影響が大きく、最も見落とされているのがこれです。
消防法では、建物の用途によって必要な設備が決まっています。自動火災報知設備の場合、飲食店や物品販売店(令別表第一(3)項、(4)項)は延べ面積300㎡以上、事務所(同(15)項「その他の事業場」)は1,000㎡以上が基準です(消防法施行令第21条)。
ここで問題になるのが、建物の「用途判定」そのものが変わることです。
事務所ビルの1区画が飲食店になると、そのビルは「特定用途を含む複合用途防火対象物((16)項イ)」として扱われます。この場合、延べ面積300㎡以上であれば、今まで設置義務のなかった自動火災報知設備を、建物全体に設置することが原則として義務付けられます。
テナント1区画の用途変更が、ビル全体の設備工事を引き起こす。この構図を知らずに契約すると、誰が費用を負担するのかで確実にもめます。
用途変更を伴う案件では、賃貸借契約の段階で消防設備の確認を入れてください。
※特定用途部分の面積が小さい「小規模特定用途複合防火対象物」に該当する場合や、開口部のない耐火構造の床・壁で区画されている場合(いわゆる令8区画)など、取扱いが変わる例外規定があります。個別の判断は所轄消防署への確認が必要です。
着工前チェックリスト12項目
そのまま印刷して、現場でお使いいただけます。
□ 1. 建物全体の用途と延べ面積を把握しているか
今回のテナントだけでなく、建物全体の用途判定を確認します。
□ 2. 今回の改修で「用途」が変わるか
事務所→飲食店、物販→飲食など。変わる場合は、ビル全体への影響を必ず確認します。
□ 3. 天井に達する間仕切りを設けるか
設ける場合、スプリンクラーヘッドと感知器の増設・移設をほぼ確実に検討します。
□ 4. 天井から0.4m以上下がる垂れ壁・間仕切りを設けるか
スプリンクラー・感知器ともに区画が分かれ、増設が必要になる可能性があります。
□ 5. パーテーションの上端が、ヘッドのクリアランスにかかっていないか
標準型ヘッドの場合、デフレクターから下方0.45m以内・水平方向0.3m以内。腰高でも対象です。
□ 6. 幅または奥行が1.2mを超えるダクト・吊り棚等を新設するか
該当する場合、その下面にもヘッドが必要になることがあります。
□ 7. 既設ヘッドの種別を確認したか
標準型か、小区画型か、側壁型か。種別によってクリアランスの基準値が変わります。
□ 8. 防煙区画が分断されていないか
排煙口のない区画が生まれていないか、建築側の図面と照合します。
□ 9. 誘導灯の視認性が確保されているか
新設の壁・サインが誘導灯をさえぎっていないか。新たな曲がり角に通路誘導灯が必要ないか。
□ 10. 消防への届出の要否と、提出者を確認したか
着工届(着手10日前まで/甲種消防設備士)、設置届(完了後4日以内/建物の関係者)、東京都内では工事等計画届出書(着手7日前まで)、使用開始届出書(使用開始7日前まで)。
□ 11. 消防検査の日程を工程表に組み込んでいるか
検査で是正指摘を受けると、オープン日が動きます。日程確保まで見込んで逆算します。
□ 12. 天井を閉じる前に、消防設備業者の確認が入る工程になっているか
これが最後の砦です。閉じてから発覚すると、内装工事の手戻りが確定します。
消防設備業者を呼ぶべきタイミング
「レイアウトが図面で固まった段階」です。
理由は3つあります。
1. 図面上ならヘッド位置を調整できる
壁の位置を数十センチ動かすだけで、移設が不要になることがあります。施工後では選択肢がありません。
2. 着工届に10日、条例の届出に7日かかる
工事の直前に気づくと、それだけで着工が10日以上後ろにずれます。
3. 天井内の配管・ダクトは、閉じてからでは触れない
スプリンクラー配管も排煙ダクトも天井内にあります。手戻りのコストは、事前確認のコストとは比較になりません。
「まだ確定ではないので」と相談を後ろ倒しにされるケースが多いのですが、確定していない段階で調整します。
図面をお送りいただければ、確認すべき項目をご回答します
株式会社Trustechは、消防施設工事業および管工事業の建設業許可を保有する管工事会社です。
テナント改修に伴う消防設備工事を数多く手がけており、設計・施工から消防署への各種届出まで、一貫して対応いたします。
「この図面で消防設備が絡むのか知りたい」というご相談だけでも歓迎です。内装工事会社様、ビル管理会社様からのご依頼を承っております。
株式会社Trustech TEL:0422-26-1745(平日 9:00〜17:00)
〒180-0023 東京都武蔵野市境南町5-9-6
対応工事の詳細は事業内容、当社の体制については選ばれる理由をご覧ください。
※本記事は、消防法・同施行令・同施行規則、建築基準法・同施行令および東京都火災予防条例に基づく一般的な解説です。設備の要否、届出の要否、様式、運用は、建物の構造・用途・規模・既存設備の状況および所轄の消防署によって異なり、例外規定や自治体ごとの運用基準が適用される場合があります。個別の案件については、必ず所轄消防署または当社までご相談ください。
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